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萌えを語り倒すためのブログ。 今は阿伏威ブーム。
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月華蝶 1


生き地獄だった。

今日食べる物もない。

寒さを凌ぐ着物すらなかった。

だから、俺は売られた。

ほんの少しの米と味噌と着物と引き換えに。

まだ小さな弟と妹に生きてほしかったから。












【月下蝶】











瞼の上から何やら光があたるのを感じ少年は目覚めた。

と、言っても普通は少年の瞼を照らしたのは朝日のはずだが、

その光は熟れた蜜柑のような橙だった。

しかし、それが彼にとっては普通で日常だった。





「んっ―」





軽く伸びをして、身体を起こすとグゥと腹が鳴った。

乱雑に布団を畳み、部屋の角に寄せると、彼は着流しに着替えて食堂へ行った。







食堂には既に他の者が食事を始めていた。

彼がそこに入ると、一斉に全員が箸を置き立ち上がった。

男の声が響く。






「おはようございます!!氷欺(ひょうぎ)さん!!!!」

「おー。おはよう」







氷欺と呼ばれた彼が生返事を返すと皆一斉に礼をし、座り、

食事を楽しげに再開した。

氷欺もその姿を見て、食事係から膳を受け取り、座った。










ここは色街。

男と女、金と欲望が渦を巻き、ヘドロとなってできた街。

そして、ここは男娼専門置屋「月華蝶」

彼らはこの色街で最も有名な男娼置屋の男娼達であった。








その中でもこの氷欺と呼ばれた男は齢十八にして

かれこれ八年間この店のトップの男娼として君臨し続けていた。





それを裏付けるかのように、

彼は男の身にして整った顔立ちと透き通った肌、

深い玉露のような瞳、

天馬の鬣のような輝く髪を持っていた。





性格はあまり人と好んで話すタイプではなかったが、

その言動は一つ一つ優しさがあり、

たまに溢れる笑顔は無邪気な子供のようであり、

他の男娼からも信頼と尊敬を受けていた。






しかし、男娼としての彼も凄かった。

彼の美しさ、性格、床の技術。

全てが男娼としてトップクラスだった。

初めは

「男など…」

と思って冷やかしに来ていた客も、

気付けば氷欺を求め、毎夜置屋に足を運ぶ者もいた。






氷欺は本名を冬獅郎と言う。

北国の農村の子供だった。

彼は酷い冷害の年に売られた。

彼は当時八つだったが、わかっていた。

このままでは家族皆餓死してしまうことくらい。

親は長男だった彼を泣く泣く売った。

冬獅郎は家族を生かすために売られた。

そして、この置屋で男娼として技術をみっちり仕込まれ、僅か二年で上り詰めた。

昔は店への借金があったが、今は返済した。

その上、今では店の売り上げの四割を彼が稼ぎ、

彼は自分の取り分の少しを家族へ送っていた。

彼はこの仕事は辛く苦しいと知っていた。

だが、もう慣れてしまった彼はどうでもよかった。

ただ、故郷の両親は彼が庄屋で丁稚奉公してると思い、

手紙にそれを書かれると彼は居たたまれない気持ちになるのだった。







そんな彼にも少しの自由があった。

彼は男娼の身に関わらず、色街から出る事を許されていた。

借金返済が終わっている彼は本当は自由の身だ。

しかし、彼が未だに留まるのは家族への仕送りのため。

だから逃げ出さない事くらい置屋の大将ギンもわかっていた。

だから、ある程度の自由を彼に与えていた。

まぁ、もちろん、仕事に差し支えない程度でだが。



氷欺はそんな生活に少しの満足を感じていた。










でもそれは彼女に出会う前の話。




(続く)
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